博物館ノート

沖縄復帰10年記念ポスト

収蔵品

はじめに 1. 制作と設置の経緯 2. ポストの構造と意匠 3. シーサー像とその象徴性 4. 移設の流れと保存 おわりに

はじめに

 1972(昭和47)年5月15日、沖縄は第二次世界大戦後27年間の米軍統治から解放され、日本に復帰しました。
 この歴史的な年から10年目を迎えた1982(昭和57)年、この歴史を後世につなぎ日本郵政事業の周知発展を願い「沖縄復帰10年記念特殊郵便差出箱」(以下、「沖縄復帰10年記念ポスト」)が制作されました。
 本稿では、同ポストの設置背景、意匠的特徴及び文化的象徴性、移転の軌跡について郵政博物館資料を基に紹介します。

1. 制作と設置の経緯

 当館には1982(昭和57)年1月25日付で郵政省郵務局施設課施設係によって「沖縄復帰10年記念特殊大型郵便差出箱の調製について」という件名で起案された書類の写しが残っています。(1)
 このポストの設置は同年5月15日の沖縄本土復帰10周年を記念し、日本郵便事業の広報及び利用喚起を目的としたものでした。また、同年3月11日にポストの調製確認のため工場に出張した復命書が郵政博物館に残っています。
 同ポストは戦後復興の象徴的な場所である那覇市国際通りの国際ショッピングセンター前(現:てんぶす那覇の敷地)に同年4月20日に設置されることになり 【図1】、華やかな除幕式も催されました。

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【図1】「沖縄復帰10年記念ポスト」
1982(昭和57)年4月20日施行 国際ショッピングセンター前(BBA-0914に収録)

2. ポストの構造と意匠

 このポストは起案の件名の通り「特殊大型郵便差出箱」に分類されます。
 ポスト本体は郵便差出箱3号(2)に準じた形状を採用し、本体高さ約160cm、幅約64cm、奥行約68cm、さらにポストの上部にシーサー像を配置してあり、上部装飾部を含めた全高は約210cmになります。
 本体の材質と技法はアルミキャストと呼ばれるアルミの鋳物製で、表面の仕上げをアクリル合成樹脂塗装の焼付仕上げとし、雨風に強い仕様になっています。
 投函口上部に「郵便は世界を結ぶ」、下部に「1982 沖縄復帰10年記念」と紺色の文字が施され、中央には「郵便」「POST」「〒」の赤い文字が配され、公共性と記念性を両立させたデザインになっています。

3. シーサー像とその象徴性

 ポスト上部に設置されたシーサーは沖縄伝統の陶芸である壺屋焼の名工・島(しま) 常賀(じょうが)氏(1903~1994)が創作した作品を原型としてブロンズ像に仕上げた物です。【図2】
シーサー像のブロンズ加工とポスト本体の制作は金属装飾技術に優れた株式会社田島順三製作所が担当し、芸術性を損なうことなく再現されました。
 沖縄の伝統的な守り神として知られるシーサーは、開運や厄除けの力を持つとされています。沖縄復帰10年を記念して設置されたポストの像は、前足を低く、後ろ足を高く構えた這う形「ホーヤー」と呼ばれる姿勢で強い威嚇を示す形を採用し、いつでも魔物に跳びかかれるような迫力があります。
 この姿には、二度と戦争や外国による支配に翻弄されることのないようにという強い願いと、そうした災厄を寄せ付けないという祈りが込められているように感じられます。
そして口を開けていることから雄のシーサーであることがうかがえます。
シーサーの力強い姿から、ポストを利用する若年層の間では、このシーサー像に触れてから郵便物を投函すると願いが成就すると人気があったようです。(3)
 

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【図2】1982(昭和57)年3月11日 株式会社田島順三製作所 埼玉工場内 沖縄復帰10年記念ポスト (部分) (BBA-0914に収録)

4. 移設の流れと保存

 沖縄復帰10年記念ポストは設置から20年近く沖縄市国際通りで町の発展を見守りながら活躍していましたが、2000(平成12)年1月15日に那覇市の都市計画に基づく国際ショッピングセンター(4)の閉店解体に伴い、一時撤去されたようです。
 この期間の詳細な情報は見つからないのですが、その後2010(平成22)年7月23日に2階の那覇空港郵便局に再設置(5)されます。
 さらに2013(平成25)年に、那覇空港内郵便局の局種変更が行われ1階に移るとポストも1階に移設されました。(6)
 そして2019(平成31)年2月25日の那覇空港内簡易郵便局一時閉鎖に伴い役目を終え、那覇中央郵便局に移され保管されることになりました。(7)
 静かに保管されていたポストは、2024(令和6)年に日本郵便沖縄支社から郵政博物館に寄贈され、2025(令和7)年7月29日に沖縄郵政資料センターで展示されることになりました。

おわりに

 沖縄復帰10年記念ポストは、日本への復帰を祝福し誕生しましたが、郵便物の取集にとどまらず沖縄の歴史的記憶を後世に伝える文化的モニュメントとしての役割も担っていました。
 設置場所の変遷は沖縄都市部の発展と変容を象徴するものであり、ポストとしての役割を終えた現在、沖縄の歴史をつなぐ実物資料としてこれからも沖縄を見守り続けます。

(注)

      1. 回議文書「沖縄復帰10年記念特殊大型郵便差出箱の調製について」(郵郵施第4号1982年2月1日決裁)本件は郵政省告示第265号(1982年4月17日付)により施行(『郵政広報』第5301号、1982年4月19日)
      2. 当館ホームページより博物館ノート「郵便ポストの移り変わり〜日本最初のポストから現在のポストまで〜」
        https://www.postalmuseum.jp/column/transition/post_10.html
      3. 沖縄郵政管理事務所編・刊『復帰十周年記念沖縄郵政事業史』1984年、286頁
      4. 「【写真で比較】国際通り、海洋博、北谷...沖縄の今と昔」『琉球新報』公開日時 2019年1月4日、 更新日時 2024年7月7日
        https://ryukyushimpo.jp/style/study/entry-856952.html (2025年7月18日アクセス)
      5. 「沖縄復帰10年記念ポスト」付属の表示板による
      6. 日本郵便公式HP「業務変更・局種変更:那覇空港内郵便局(沖縄県)」2013年2月8日発表
        業務変更・局種変更:那覇空港内郵便局(沖縄県) - 日本郵便 (2025年7月18日アクセス)
      7. 日本郵便公式HP 「一時閉鎖:那覇空港内簡易郵便局(沖縄県)」 2019年1月25日発表
        一時閉鎖:那覇空港内簡易郵便局(沖縄県) - 日本郵便 (2025年7月18日アクセス)